12歳のお誕生日を迎えた、ごんちゃんという犬。
2025年04月17日
本日4/17はライフボートで最も恐れられている犬、ごんちゃんのお誕生日です。

クラウドファンディングの30万円コースを担当しているゴンちゃんは、以前紹介したらいちゃんと同じく「譲渡が難しい犬」です。
正確に言うと今のゴンちゃんは「譲渡ができない犬」です。このままシェルターで生涯過ごすことになると思います。
ゴンちゃんはかつてはライフボートによくいる、ごくごく普通の子犬でした。
生後2ヶ月の時に里親さんが決まり、幸せな犬生が始まると同時に「ゴンちゃん」というお名前をいただいたのです。
お迎え後は特に飼育に関するご相談をいただくこともなく、家庭犬として楽しく過ごしてくれているものと思っていました。
ところが、そこから4年の時を経て、ご家族様から一本の電話が入ります。
「家族ですら触ることができません。リビングを自分のなわばりだと認識してしまい、日常生活を送るのが困難です」
当時、その電話を受けた時の率直な感想は
「家の子に触れない?そんなはずないだろう」
でした。
というのも、里親さんに引き取られた後に攻撃性が理由でシェルターに帰ってくる子はいたのものの、「特定の家族(男性や小さなお子さん)を噛んでしまう」とか「散歩中に知らない人を噛んでしまった」というケースの子しか見たことがなかったからです。
なので、そんな大袈裟な、と思わずにはいられなかったことを覚えています。
やむを得ない事情ができて犬を飼い続けることができない、とシェルターに帰ってくる犬は年間4〜10頭います。
飼い主として果たすべき最後の責任としてシェルターにお連れいただくようお願いをしていますが、犬に近寄ることもできない状況だとそれも無理だということでご自宅まで引き取りに行くことに。
そして、リビングのドア越しにゴンちゃんに会った時、ようやく納得できました。
ドアに人が近づいただけで歯を剥き出しにして唸り、ドアノブに手をかけたら飛び掛かってくる姿。
成犬になってからは初めて会うのだから、スタッフに対してそうなるのはなんとなく予想できていました。
しかし、ご家族様に伺ったところ「ここまでは唸りませんが、リビングに入ったら噛まれます」とのこと。
ライフボートで働き始めて10年目の出来事。
後にも先にもあの日ほど「犬が怖い」と思ったことはありません。
直接触れることはできませんので、どうにかこうにかケージに入ってもらい、ケージごと車に載せて、ケージのまま犬舎に運び込みました。
(文字にするとあまりにもあっさりとシェルターに帰ってくることができていますが、あの日の苦労は筆舌に尽くしがたいです)
ゴンちゃんを入れたまま運び込んだケージに大きなケージを連結させ、扉に結んだ紐を引っ張ることでケージ間の扉を開け閉めする。
まるで動物園の猛獣の檻。ゴンちゃんと人が同じ空間にならないように居場所を整えました。
環境の変化に戸惑い、物音も人の動きも怖くてたまらないといった様子だったゴンちゃん。
怖いから唸る。怖いから噛む。ゴンちゃんの気持ちもわかりますが、私だってゴンちゃんが怖くてたまらないよ、とケージ越しに吠えられ冷や汗をかきながらケージ内の掃除をした日々を思い出します。
手に汗を握る人間と、歯を剥いて唸るゴンちゃんとの根比べ生活が始まって二ヶ月が過ぎた頃、ゴンちゃんに諦めの色が見え始めました。
リビングを独り占めしていた頃は「吠える・噛む=人を追い払える」という生活だったのに、ライフボートの人間は吠えても唸っても掃除が終わるまでは出ていきません。
それどころか、ジャーキー片手に懐柔しようと試みてきたり、ケージから出るよう促してきたり、思い通りにならない人間の存在に戸惑いを見せるようになりました。
ケージから犬舎内を自由に。
柵越しの中に手を入れても吠えず、人が傍にいてもご飯を食べられるように。
焦って距離を縮めて、一度でも噛まれてしまったら元通りになってしまうので、慎重に、慎重に事を進めます。
そして、ゴンちゃんがシェルターに帰ってきてから4ヶ月。ついにその時を迎えたのです。
初めてのスキンシップ。が、右足の肉球。
ドキドキしながら同じ空間にしゃがんだ私に差し出される右足の肉球。
離れていかない人間に戸惑っていたゴンちゃんに代わり、今度は私が戸惑う番でした。
それからは、本当にあっという間です。
こんな格好で歓迎してくれたり、
部屋に入ると笑顔で迎えてくれたり、
首輪を付け替えさせてくれたり、
ボール遊びを一緒にしてくれたり。
普通の、本当にごく普通の家庭犬のように、たくさん甘えてくれるようになりました。
残念ながらゴンちゃんが心を開いてくれているのは私にだけで、他のスタッフに対しては、というと……
まだまだ「おうちの子」からはほど遠いです。
シェルターで過ごすのに「一人だけに心を開いてくれている」というのは決していい状況ではありません。
誰一人触れることの出来なかった7年半前と比べたらものすごい成長を遂げてくれてはいるのですが、それでもいつかは他のスタッフも触れるようになることを目指してこれからも頑張ってもらおうと思います。


